まえがき
このほど、15年ぶりに題詠100首を詠み終えました(ヤンヤヤンヤ)。
2007年に「題詠blog2007」というのがネット上で開催されました。決められたお題100個を順番に1首ずつ、1年で詠むという催しでした。
参加したのですが途中で挫折。2011年にツイッターで再開して3年ぐらい続けましたが、またもや挫折。今年8年ぶりに違うアカウントのツイッターで再開して、やっと終了しました。
苦節15年(笑)……。感慨もひとしおでございます。
記念としてこちらに100首をまとめて書き留めておきます。
題詠100首
001~010
001:始
始祖鳥の羽根は火炎の赤がよし歯牙は吹雪の真つ白がよし
002:晴
なまぬるき体脂肪のみ増えてゆく叱咤の鞭なす冬晴れが欲し
003:屋根
恋猫の声がざらつく屋根のうへ綺麗な病気ひとつください
004:限
√2の無限小数うたがひて眼鏡はずせば世界はおぼろ
005:しあわせ
六本木ヒルズの影の濃きところ 「しあわせ」って「しわよせ」に似ている
006:使
「円周率の日」を過ごしをり天使像の幽閉されたる美術館にて
007:スプーン
背中からつたはる母音やはらかき春夜の底のスプーンポジション
008:種
たとふればやさしき吐息第三種郵便物の封の切れ目は
009:週末
気化したる夢をまとひて週末の朝のまどろみ僅かに重し
010:握
祝日の鬣を陽に嬲らせて握り金玉(てもちぶさた)のライオンがゐる
011~020
011:すきま
iPodの音のすきまに次の駅つたふる声と風が光れり
012:赤
頓死とは赤きものならむ草はらに咲きつどふ曼珠沙華のその赤
013:スポーツ
スポーツをやたらすすめるオトナってうさんくさいねやきいもやけた
014:温
まつたりとししむら溶ける心地してパカマラ温泉といふ珈琲
015:一緒
CDと一緒に歌ふわが声は菜の花畑のとつぱづれまで
016:吹
まなうらの闇はつめたしまぼろしの吹雪はつねにわが裡にある
017:玉ねぎ
玉ねぎの饐えた匂ひす汗ばみて子を抱く女の腋のあたりは
018:酸
味蕾でも未来でもどっちでもいいオレンジほどの酸っぱさがあれば
019:男
Giappone(ニッポン)は男性名詞ぞキヨーレオピン呷りて作る男の料理
020:メトロ
「メトロは終電車」とふ歌詞いにしへのムード歌謡に聴きをり春の夜
021~030
021:競
競艇に倦みたる老人うす闇をぼろぎれのごとく纏ひてあゆむ
022:記号
妖精にからかはれてる気がします国際音声記号のによろによろ
023:誰
水紋の乱れさみだれ誰ゆゑにわが湖にさざなみは立つ
024:バランス
バランスなど元からとれぬ不等辺三角形のこのわたしには
025:化
夏つばめの凶器に似たる速度あり光化学スモッグのどん底
026:地図
暖鳥(ぬくめどり)めきて鳩ヶ谷、川口に優しく抱かるる埼玉の地図
027:給
給茶機の煎茶うすくてしみじみと手相を見をり蛍光灯の下
028:カーテン
カーテンのむこうに鈴の音が走る満月の夜は猫族のもの
029:国
地下鉄の駅にさらさら異国語の短冊揺れる七夕の夜
030:いたずら
歌詠むは貴石を増やす心地して世をいたづらに経るとはいはじ
031~040
031:雪
秋の夜はドライおからも雪花菜(きらず)とふ美しい名で呼びたき心地
032:ニュース
蒼天をグッドニュースのように飛ぶ燕はなおも加速度あげて
033:太陽
太陽のまわりをまわるわたしたちご飯食べつつ戦争しつつ
034:配
引力の支配をこえて浮遊する惑星ありとふ空のかなたよ
035:昭和
昭和とふ言葉は古れど靴箱のかの人の名はいまもさやかに
036:湯
錠剤の小青竜湯無味にして飲みやすし効能をうたがふ
037:片思い
片思いみたいな雨の直線につらぬかれつつ走って帰る
038:穴
恋猫のこゑ渦巻いてとけゆきぬ空といふ無限大の穴へ
039:理想
煮崩れたお芋食べつつ思うこと「理想的」ってたぶん退屈
040:ボタン
貝ボタン口にふくめばひえびえとまた閉ざさるる儚き光
041~050
041:障
壁に耳、障子に目ありメアリーとボブはなかよし教科書の中
042:海
自販機が夜明けの晩に産み落とす海洋深層水入りのお茶
043:ためいき
クレヨンの全部の色を減らすためいきあたりばったりの人生
044:寺
前(さき)の世はかどはかされし若君か知らねど月下の三井寺歩行虫(みゐでらごみむし)
045:トマト
うすくこきサラダのみどり若草に陽の滴なすトマトの緋色
046:階段
靴音の響きどこまでデパートの階段つねにひえびえとして
047:没
生没年不詳の謎の歌人とぞ呼ばれたし千年後の今晩
048:毛糸
毛糸玉ころがつてゆく闇の先じやれつく猫もをらず暮れゆく
049:約
約翰(ヨハネ)とふ字の翁さび基督(キリスト)にもつとも愛されし少年は
050:仮面
わが仮面とりかへるほど在庫なく昨日とおなじ濁るあけぼの
051~060
052:あこがれ
引力にとどめられたるひなげしのあこがれやまず空へとゆれる
053:爪
追いかけても追いかけても追いこせない爪先からはえるわが影
054:電車
ポケットのチョコも時間もとけてゆく路面電車はひだまりの中
055:労
勤労も苦労も疲労も嫌ひにてスロウテンポの阿弗利加禿鸛(アフリカハゲコウ)
056:タオル
関東は風つよき土地地方紙の名入りタオルが故郷へはためく
057:空気
久々ににんげんと会話したあとはわたしが拡散する空気中
058:鐘
身のうちに響く鐘あり妬心の炎は千の蛇(くちなは)とならむ
059:ひらがな
ひらがなの絵本の深い蒼のなか姫は眠つてゐたかつただらう
060:キス
女の子キスしてポイのジョージィのゆくすゑいかに 紅葉かつ散る
<Georgie Porgie, pudding and pie.…>
061~070
061:論
苦虫の不眠のlonely真夜中の論理パズルがひとつも解けない
062:乾杯
いつもいつも周回遅れの走者にてゴールの後は一人乾杯
063:浜
肺のなか通過させたき色として京浜東北線の青色
064:ピアノ
鍵盤を指しなやかにすべるときピアノの黒は濡れるばかりに
065:大阪
江戸弁も広島弁もしやべれるがお好み焼きは大阪仕様
066:切
「蕨」とふ消印のある手紙には桜の切手 部屋があかるむ
067:夕立
広重の夕立はげし橋を行く人々の笠つらぬいて降る
<名所江戸百景「大はしあたけの夕立」>
068:杉
広重を模写した腕は糸杉を描いたその腕 うねる川波
<ゴッホ>
069:卒業
卒業ののちに一度も会はずして今年もぬるき水めく賀状
070:神
大寒の神社に鳩は丸くなり絵馬の字のみの躍るばかりに
071~080
071:鉄
血の足らぬ身にてヘム鉄非ヘム鉄口にふくめば牡丹雪ふる
072:リモコン
痩身に見切れぬ数のチャンネルをおさめて静けしテレビのリモコン
073:像
駅前の午後の裸婦像頭頂に土鳩乗せたるその薄き笑み
074:英語
たとふれば末摘花のさびしさに発音よかりし英語の先生
075:鳥
雨音に包まれながら読んでゐる鳥と人との恋物語
076:まぶた
二重まぶたが似合ひさうなり春日野の雪間の歌を詠みし忠岑
<春日野の雪間を分けておひ出くる草のはつかに見えし君はも 壬生忠岑>
077:写真
アシモフの写真の表紙たそがれてふと口ずさむなじみの音楽
(キダタローかと思っちゃう。と〜れとれピ〜チピチかに料理♪)
078:経
美声なる般若心経イヤホンを震はせ蝸牛管を震はせ
079:塔
ふきのとう・一等・悪党・バベルの塔 スカイツリーが雨雲を刺す
080:富士
白雲にあらずや茫(ばう)とスモッグの向かふはるかに浮かぶ富士山
081~090
081:露
月曜の犬を売る店ひそやかに落とし物めく露草の青
082:サイレン
サイレンを人ごとのやうに聞いてゐる真夜中の救急車のなかで
083:筒
水筒の氷かすかな音たてて迷宮となる夏の図書館
084:退屈
退屈は苦痛ですねん靴鳴らしツーツーレロレロツレロレランラン
085:きざし
あさもよいよいきざしなり新緑の色の茶のなか茶柱が立つ
086:石
石鹸をみかんのネットに入れたりし昭和はるかに鳥雲に入る
087:テープ
空の青にも染まらざる白糸のクルンテープは天使の都
088:暗
雷鳴のとどろに響くATM暗証番号どれもちがふ
089:こころ
ころころとかはるこころよくもゐなすこころころころころがるりんご
090:質問
滂沱たるみずがめ座η流星群職務質問されしそののち
091~100
091:命
湿舌の進入すれば腕ずくの命令形のごとき雨音
092:ホテル
Don't Disturb ゆたにたゆたにゆくふねのホテルに雨の朝のまどろみ
093:祝
祝日のガスの炎はわれわれのビーフシチューを煮立てて踊る
094:社会
おみやげのキャラメルだけは覚えてる遠いむかしの社会科見学
095:裏
裏切りの恨みつらみようららかに裏腹の裏原宿の春
096:模様
六月は水玉模様の傘さしてピチピチチャプチャプ雨と踊ろう
097:話
あかねさすひそひそ話きき耳を立ててひるがほ赤く色づく
098:ベッド
青虫はキャベツのベッドで夢みてる鱗粉ちらして風になる日を
099:茶
茶色なら芝翫茶・路考茶・錆利休・団十郎茶・Van Dyck Brown
100:終
静けさが素水(さみず)のように満ちてくる ひとり遊びの終わったあとで