しぐなすの創作物置小屋

小説・現代誤訳・詩歌・漫画などなど

200字小説「過去の旅路」

 彼女の前には古い時刻表があった。不用品のダンボール箱に入れたのをすっかり忘れていた。雅彦との旅行のために買ったのだが、計画を立てる前に別れた。手痛い裏切りに泣き続けた日々が思い出される。二〇一四年はまだ金沢まで新幹線が延伸していなかった。経路を確かめ、メモをとった。雅彦のことなど忘れて、架空の旅行計画に夢中になっていた。楽しいと心から思えた。翌朝、時刻表は雅彦の記憶とともにゴミに出された。

「新宿・2023年12月」

 アルタの隣の隣、GUCCIの向かい側で人を待つ。飛び出す三毛猫の3D街頭ビジョンが間近に見える。でもここからは飛び出して見えない。
 遠くの曲線はコクーンビル、その向こうのオレンジ色の空を飛行機が飛んでゆく。地上ではひっきりなしに人々が行き交い、枯葉が舞い散る。
 歩行者天国の信号は消えて、走る電車の向こうには看板が見える。「くら寿司」。「カラオケの達人」。「龍角散」の文字の下は黄葉した木が邪魔して見えない。
 あちこちの街頭ビジョンから音楽が聞こえる。足音、電車が走る音、話し声、マイク越しの呼びかけ、中国語、知らない国の言葉が混ざって渦を巻く。
 師走というには寒くない。女の子三人組が(二人はオロナミンCを片手に)笑いながら歩き、ベールをかぶった外国人が不織布マスクを振り回す。
 一瞬、人通りが途絶えたと思うと、また人が流れ出す。
 15:45、太陽がビルに隠れて、光はオレンジ色から青へと変わる。待ち人が手を振る。

200字小説『境界線の引き方』

 ユウトってば、境界線の引き方が全然わかってないんだから。私というカノジョがいるのに、なんで幼馴染と二人きりで飲みに行くの? 男と女だよ? 「マイは幼稚園からのただの友達。恋愛感情皆無」ってユウトはヘラヘラしてるけど、私は男女間の友情なんて成立しないと思ってる。そもそも幼稚園から大学まで同じ学校なんて、ユウトのこと追いかけてるんじゃないの? てか、私の嫌がることするなんてサイテーだよ、ユウト!



※お題は「140文字で書くお題ったー」様(https://shindanmaker.com/375517)よりお借りし、200字に変更いたしました。ありがとうございます。