しぐなすの創作物置小屋

小説・現代誤訳・詩歌・漫画などなど

歌物語

創作歌物語「遠ざかる声ばかりして」

昔、男ありけり。うるはしき友あり。男、人の国へまからむとて、これを限りとて、あひ具して野辺に戯る。花の咲きたる木のわたり、うぐひす鳴きをり。やがて道まどひて、男、 思ふどちそこともしらず行きくれぬ花の宿かせ野辺のうぐひすと詠みて、共に花の下…

「八つ橋物語」

「おもかげ」

昔、ある男に仲のよい友人がいた。二人は片時も相手を忘れず、互いを思い合っていたが、友人が遠い国へ行くことになり、男はつらい思いで見送った。 しばらくしてから、友人が男に手紙を書いた。 「会えなくなって、あきれるほど月日がたったね。あなたに忘…

「かつ見れど」

こんなに月が綺麗な夜なのに、Mは来ない。縁側は銀の光に濡てゐる。僕はその縁側に腰を下して、もう半時程もぼんやりと月を眺めて居る。 何時もさうだ。決って彼の方から「今夜お前の家に行く」と云ひ出す。そのくせ、遅れたり素つ放したり。さうかと思へば…

「すまし顔」

東に背を向けて歩く帰り道。八月の末ともなると、日が落ちるのがはやい。あたりはもうとっぷりと暮れている。それでもこの蒸し暑さにはうんざりする。汗のせいで、長くなった前髪が額に貼りつくのがうっとうしい。 目の先、前方のマンションの上階の窓ガラス…

「荒れたる宿に」

一瞬、彼女だと思つた。しかしそんな筈はなかつた。あれはもう、四十年も前の事だ。—— 気まぐれに彼女の家を訪ねた。此処に来るのは大学卒業以来、随分と久しぶりの事だつた。 彼女は私の下宿の大家の娘で、女学生だつた。 唇も合はせた事のない、淡い恋だつ…

渡りはつべし -七夕物語異聞2-

織姫の涙おちそへてまさりけるか、天の川波なほ高し。牽牛、心乱れて水に入らんとするに、声あり。 渡し守「ちよつとー、なにやつてんすか。まだ朝ですよ。営業時間は夜七時からですつてば。勝手に渡られると困るんすよねー」 また、空より声す。 かささぎ「…

渡りはてねば -七夕物語異聞1-

牽牛、その日なれば、天の川渡らむと川原に行きけり。川波、星の光をうつして、きらきらしきことかぎりなし。 牽牛、心はやれど、渡し守、かささぎ、見えず。牽牛、「あやし」と思へど、舟だになし。 歩きて渡ることかなはねば、泳ぎて渡らむとすれど、波う…

花の行方

むかし、聖ありけり。暮れ方、高野山の奧をすぎゆくほどに、春の雨ふりきたり。そこもとの桜、花咲きゐたるに、その陰に足に傷をおひたる娘、震へつつをりけり。高野山、女人禁制なれば、あやしきことなるに、花散りかかる娘の姿いとはかなげに見えたり。聖…

月かげ

むかし、男、女のもとにひと夜行きて、逢ふ瀬を契りたるに、はかなくなりぬ。女、知らざりければ、ひと年、ふた年、過ぎゆきて、たのまずなりぬるを、え死なずありけむ、千年とぞなりにける。いと白うなりたる髪、月かげにまがふ。さるひと夜も、月のあかき…

因幡のうさぎちやん

「因幡のうさぎちやん」 大国主命、トリノオリンピックを見たまひて詠める歌 たちわかれイナバウアーののけぞりの裸のうさぎちやんは元気か 因幡の白うさぎ、歌にこたへて曰く「効能は?皮を剥がれたバカうさぎによろしいやうです〜…つて、11PMかい!」 …

無限に遠き -竹取物語異説-

今は昔、月をながむるかぐや姫あり。月にレモンパイの面影たちて、「食べたし」と袖をしぼるほどに、三人の男きたりて、求婚しけり。男ども、口々にもの言ひて、かぐや姫を口説きけり。 チルチル、「いつしよに青い鳥をさがしに行かうぜ、ベイベー」とぞ言ひ…

おのれが誰か知らざる男の話

「おのれが誰か知らざる男の話」 昔、おのれが誰か知らざる男ありけり。 おのが社員証を見れども、保険証を見れども、勤務先と名前と生年月日書かれたるばかりにて、おのれが誰かわからず。 おのが名前を百万回書けども、腕疲るるばかりにて、おのれが誰かわ…

17才

「17才」 むかし、亀ありけり。齢十七の春、アキレスと海へ行きけり。浜辺にて、亀、アキレスの腕をすり抜けてよめる。 いざわれをつかまへよ君早春の波あをあをと寄せくる前に 亀、しばし走りたるを、夢見心地なれば、うつかりと海へ入りて泳ぎにけり。ア…

好きよキャプテン

「好きよキャプテン」 むかし、古文の苦手なるキャプテンに、ラ変動詞を教へり。キャプテンほほゑみければ、テニス焼けのゑがほ、いとまぶしかりし。その日より、ラ変動詞はわが呪文となれり。バレンタイン・デーによめる。 目をとぢて「ありをりはべりいま…