しぐなすの創作物置小屋

小説・現代誤訳・詩歌・漫画などなど

400字小説「祈りの日」

 空襲の翌日、東京は焼け野原だった。母に連れられて旦那様のお屋敷に行った。私たちが住んでいた離れの小屋は跡形もなく、母屋はかろうじて屋台骨が黒焦げになって残っていた。
 瓦礫の中に生焼けの積み木があった。確かに坊っちゃんの玩具だ。一度ちらりと見た時から、羨ましくて仕方がなかった。妾の子にそのような玩具など望むべくもないのは、大人になった今ならわかる。
 積み木を拾おうとする私を、母が制止した。見ると、積み木の周りに小さな骨らしきものが散乱していた。
坊っちゃんは積み木を抱いていたんだね」と母が涙ぐんだ。私も声を上げて泣いた。
「男の子が泣きなさんな」と母が言った。
 私たちは手を合わせた。
 本当は坊っちゃんの死が悲しいのではなかった。積み木が惜しくて泣いたのだ。
 今年もまたあの日が来る。


「三題噺スイッチ改訂版」様のお題
焼け野原
拾う
積み木
https://mayoi.tokyo/switch/switch2.html