しぐなすの創作物置小屋

小説・現代誤訳・詩歌・漫画などなど

2020-01-01から1年間の記事一覧

レア物(『徒然草』より)

和歌漫画

突撃インタビュー

掌編小説「初めてのチーズ牛丼」

吉野家にチーズ牛丼を食べに行った。初めてのチーズ牛丼である。 席について注文を終えると、程なく年配の男性が店に入ってきて、近くに腰かけた。いきなり「カタン」という大きな音がした。持っていた杖を床に落としたようだ。その音が私の意識をそちらに向…

とほほネタ

掌編小説「ポケモンGOでちょっといい話 4つ」

私はこのごろ、スマホの位置ゲーム・ポケモンGOをプレイしている。その日も近所のN寺周辺を歩いていた。ゲーム内でアイテムをもらったりバトルをする場所が「ポケストップ」や「ジム」で、N寺もポケストップの一つだ。「すみません、お近くの方ですか?」 …

掌編小説「最後の晩餐」

夫の死体を前にして、彼女はきわめて冷静だった。彼女は血だらけの包丁を握ったまま、冷たくつぶやいた。 「トロピカルカレーに生玉子を乗せたのをけなす方が悪いんだからね」 彼女は丸岡フーズのトロピカルカレー缶詰が大好物で、生玉子を乗せるという自分…

掌編小説「あすか」

女は「あすか」と名乗った。飛ぶ鳥と書いて「あすか」。 行きずりの女だった。ショートカットに真っ赤な口紅の華奢な女だった。 ホテルに行った。二人して素裸になりベッドに倒れ込んだ。俺は彼女を後ろから抱いた。 「この体位、何ていうか知ってる?」 耳…

掌編小説「弱法師の夕日」

大学の卒業式も終わり、辻本君のいなくなったこの街。梅の花がほろほろと散っている。春分の日ももうすぐ暮れる。私は一人で西の空を見ていた。 「ハックション」 花粉症でくしゃみが出る。目もしょぼしょぼする。 「弱法師(よろぼし)」という能楽がある。…

地蔵菩薩のER救命事件簿・地蔵菩薩ピンチの巻

<Aさん(土佐・室戸の津住人)の証言> あそこにお堂があろう、津寺というお堂なんじゃが、ほれ、軒のところがちょっと焦げちゅうがや。それにはこんな訳があるんがや。…… もう何年たつか、あるとき、野火があってな。このへんの山が焼けたことがあったがや…

掌編小説「山下くん」

私は若い頃から本を読むのが大好きで、書店も大好きな場所である。好きな書店はいくつかあって、品揃えの豊富な都心のM書店もそのひとつだった。 そのM書店で、ある日、文庫本を立ち読みしていたら、通りかかった若い男性店員に注意された。本を片手で持っ…

地蔵菩薩のER救命事件簿・阿清さん(備中・修験者)の証言

あれはたしか、わしが二十四、五歳だった時のことじゃよ。もっと若い頃には、大きな寺の律師(えらい坊様のことじゃ)の弟子だったんだが、そこを飛び出しての。それからは修行を積むために各地を巡っていた。ところが、はやり病にかかって、寝込んでしまっ…

仄聞伝説(ほのぎきでんせつ)「照姫と瑠璃丸」

1 昔、ある村に照姫(てるひめ)という美しい娘がいた。元は身分の高い生まれだったが幼いころに両親と別れ、この村まで流れてきた。村のはずれの粗末な庵で暮らしていた。 姫が十九歳になったころ、一人の少年が訪ねてきた。名を瑠璃丸といった。十六歳だ…

掌編小説「ある年配女性の問わず語り」

阪神大震災の日に離婚届を出しに役所まで行きましてん。別居してたからね、バス乗り継いで。揺れたん、朝早かったでしょ、目ェ覚めたけどね、まあうちはちょっと物が落ちたぐらいで済みましたわ。ほんで午前中家出てね、阪急が止まってるのん知らんかったん…

仄聞伝説(ほのぎきでんせつ)「数学者と黒い天使のお話」

昔むかし、外国のお話です。 円周率の計算に取り憑かれた数学者がいました。彼は毎日、朝から晩まで、円周率の計算をしていました。 ろくに食事もしなかったものですから、元々病弱だった彼は、まだ四十にもならないのに病気になってしまいました。それでも…

「言い訳」

「#小説」というタグをつけるのは、「これはフィクションです」という宣言です。それ以上でも以下でもありません。僕は僕の書くものがほんとうに「小説」なのかどうかわかりません。けれども「物語」というには、僕の書くものは短すぎる気がしますし、「おは…

掌編小説「白花サルスベリの家」

駅の方へ行く道に、門口にサルスベリが植わっている家がある。夏になると赤ではなく、白い花が咲く。私は勝手に「白花サルスベリの家」と呼んでいる。 梅雨の晴れ間の午後だった。駅前のスーパーへ行く途中、その家の古びたブロック塀の前で、老人が何か話し…

帝釈天の事件簿・お地蔵君を救え!

遠い昔のこと。山科は四の宮というところに住まう権兵衛という者が、地蔵菩薩像を作った。しかし開眼供養、いわゆる魂入れもしないで櫃に入れ、奥の部屋にしまいこんだ。そして日常の雑事にまぎれて忘れてしまい、三、四年くらい過ぎてしまった。 ある夜、権…

掌編小説「コワモテ書店」

もう十年以上前、女子高生だった私は、樋口一葉に興味をもった。教科書に載っていた「たけくらべ」を読んだのがきっかけだった。 友達はライトノベルや軽めのミステリーを読んでいて、一葉には見向きもしない。 「樋口一葉って古文じゃん。読む気がしない」 …

「小説再挑戦」花山信義

えー、花山信義と申します。本日は「市民わいわい祭り」スピーチ発表会に参加できまして、大変光栄に存じております。 えー、小生、最近はひさかたぶりに小説を書いておりまして、今日はそのことをお話し申し上げようと思います。 何を隠そう、三十年ほど前…

歌物語「春の鳥」

従兄の春夫兄さんは春が大好きでした。春に生まれたから「春夫」と名付けられたさうです。私も春夫兄さんが生まれた春が大好きでした。 春夫兄さんは何でも知つてゐました。私が幼い頃、雲雀を教えてくれたのも春夫兄さんです。春の夕方、一緒に散歩してゐる…

歌物語「月のひかり」(擬古文+現代語バージョン)

京の都、千本通りに朱雀門の跡あり。 そのかみ、朱雀門ありし世、男ありけり。かたちきよげなるを、頭(かうべ)に角一本あり。月のあかき夜、直衣着て朱雀門の前にて笛を吹きけり。 いつのころにか、同じさまなる直衣着たる人、朱雀門にきたりて、これも笛…

ヤマタノオロチくん・ミステイク3

歌物語「花の残り香」

昔、大納言の御娘とて、かたち、ありさま、いとらうたげにおはしますが、北の方、継母にて、御娘の数に思さず、姫君、わびしきこと多かりけり。 五月の夜深く、姫君、寝(いね)られず端近く寄りたまふ。花橘の香しるかりければ、 五月闇空なつかしく匂ふか…

帝釈天の事件簿・ドケチの彼方に

「アハハハハ、愉快愉快」 山の中に嬌声が響く。 人はもちろん、鳥も獣もいない山の中である。男がたった一人でごちそうに囲まれて酒盛をしていた。留志(るし)という金持ちだった。 「誰もいないところでうまい物を食い、酒を飲む。こんな愉快なことはない…

掌編小説「あだ人とかりのこ」

「また彼氏のため?」 バイト先のスーパーで高級赤たまご十個パックを買うたびに、バイト仲間のおばちゃんが笑う。近頃はもう半ば呆れ顔だ。 私は曖昧に笑ってやり過ごす。 だってケンちゃんにはできるだけいいものを食べさせたいから。バイトなら割引で買え…

ヤマタノオロチくん・ミステイク2

ヤマタノオロチくん・ミステイク

ひこぼしくん(仮)

歌物語「桜色の傘」

いつも乗る朝の電車。目の前の座席では、早春の日射しの中で、また彼が居眠りしている。 私より少し年下だろうか、二十五、六歳のサラリーマン風。紺色のスーツを着た、名前も知らない人。でも降りる駅だけは知っている。たまにはちゃんと起きて降りるから。…