こんなに月が綺麗な夜なのに、Mは来ない。縁側は銀の光に濡てゐる。僕はその縁側に腰を下して、もう半時程もぼんやりと月を眺めて居る。 何時もさうだ。決って彼の方から「今夜お前の家に行く」と云ひ出す。そのくせ、遅れたり素つ放したり。さうかと思へば…
東に背を向けて歩く帰り道。八月の末ともなると、日が落ちるのがはやい。あたりはもうとっぷりと暮れている。それでもこの蒸し暑さにはうんざりする。汗のせいで、長くなった前髪が額に貼りつくのがうっとうしい。 目の先、前方のマンションの上階の窓ガラス…
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