しぐなすの創作物置小屋

小説・現代誤訳・詩歌・漫画などなど

2023-01-01から1年間の記事一覧

200字小説「過去の旅路」

彼女の前には古い時刻表があった。不用品のダンボール箱に入れたのをすっかり忘れていた。雅彦との旅行のために買ったのだが、計画を立てる前に別れた。手痛い裏切りに泣き続けた日々が思い出される。二〇一四年はまだ金沢まで新幹線が延伸していなかった。…

短歌

「葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり 釈迢空」へのオマージュ枯葉たち踏みしだかれて色あせて都会の舗道ひとが行き交ふ

短歌

電線は空の五線譜ハトが二羽ソとシの位置で音符となって

「新宿・2023年12月」

アルタの隣の隣、GUCCIの向かい側で人を待つ。飛び出す三毛猫の3D街頭ビジョンが間近に見える。でもここからは飛び出して見えない。 遠くの曲線はコクーンビル、その向こうのオレンジ色の空を飛行機が飛んでゆく。地上ではひっきりなしに人々が行き交い、枯…

200字小説『境界線の引き方』

ユウトってば、境界線の引き方が全然わかってないんだから。私というカノジョがいるのに、なんで幼馴染と二人きりで飲みに行くの? 男と女だよ? 「マイは幼稚園からのただの友達。恋愛感情皆無」ってユウトはヘラヘラしてるけど、私は男女間の友情なんて成…

200字小説『言えるわけがない』

だって、あいつとは喧嘩ばかりしてたんだ。小学生の頃から、俺はあいつの短い髪をからかったり、あいつは俺の字が下手だと嗤ったり。中学生の頃は成績で張り合ってた。高校生になったあいつが急にきれいになって、テニス部の主将と付き合っても、俺は知らん…

「宅配便を待つ女」

彼女は宅配便を待っていた。二、三日前にインターネットで注文した品物が来ることになっていた。住んでいるコーポには宅配ボックスというような気の利いたものはない。置き配は一度トラブルがあってからは断固拒否している。ネットの追跡サービスで調べると…

「燈火の炎に映った女」(ロングバージョン)

大納言の君の話 その宵、私(わたくし)が用事を済ませて宣耀殿に戻りましたところ、ちょっとした騒ぎになっておりました。小中将の君は母屋にいるはずなのに、廂の燈火の炎の上に小中将の君の姿が浮かび上がったというのです。 「小中将の君が二人……。どう…

200字小説『忘れて、なんて残酷だね』

「忘れて、なんて残酷だね。私ならそんなこと言わない」とユウコは言った。「あなたの五年間をなかったことにするなんて」と。「彼女にあげたハートのネックレスをなかったことにするなんて」と。「出張先から書いた愛の手紙をなかったことにするなんて」と…

現代誤訳短歌

「いかにせんかくとは人に言ひがたみ知らせねばまたしる道もなし 京極為子」【現代誤訳】 このきもちなかったことにしたくないだけどいえない好きですなんて

短歌

「おとうとよ忘るるなかれ天翔ける鳥たちおもき内臓もつを 伊藤一彦」へのオマージュ内臓のなき鳥として夕空をひかりて浮かぶ遠い飛行機

200字小説「遠花火」

蒸し暑い夏の夜。ドーン、ドーンと音がする。遠花火。隣にマンションが建って、今年は窓から花火が見えなくなった。 花火大会に行った若い日を思い出す。横には彼女がいた。初めての恋。紺色の浴衣を着てはにかむ彼女は可憐だった。 「花火、見に行く?」 三…

400字小説「ボクは犬」

ボクは犬の山田ポチ。元捨て犬の雑種だけど、小学五年生のタケルが子分。毎日散歩に連れていく。 ある秋の午後、タケルを連れて遊歩道を散歩していると、見慣れないトイプードルがいた。かわいい女の子だ。リードを持っている人間も女の子で、ひらひらのスカ…

200字小説「敗戦の弁」

完全にわしの負けじゃ。この世界に入って足かけ五十五年。かつては天才少年と呼ばれ、向かうところ敵なしだったが、あんな若造に敗北を喫すとは、わしも焼きが回った。あやつは今年十六歳と聞く。わしがプロデビューしたのも十六の春だった。雪解川の勢いは…

200字小説「あやめ」

この古びた屋敷にひきこもって何十年になるだろう。昔々、あやめも知らぬ恋をした私を、二親(ふたおや)はここに閉じ込めた。その親ももういない。久しぶりに雨戸を開けると庭にあやめが咲いていて、私の心を乱す。あの人はどこでどうしているのだろう。婆…

200字小説「おぼろ月」

彼女は煌々と冷たく輝く満月の下を走っていた。見てしまったのだ、タカシがカズミとキスしているのを。大学一年生の時から付き合っている彼の部屋の扉を合鍵で開けたとたん目に入り、そのまま飛び出した。付き合って三年の自分達の間に、まさかサークルの後…

200字小説「呑んだくれの独り言」

台風の中をアケミが出て行った。場末の飲み屋のホステスだが、勝手に俺の世話を焼いていた。片足をなくして船を降りてからもうすぐ一年。サメにさえ食われなけりゃ船乗りを続けたのに、生き残ったのが奇跡なんだとよ。足がうずくとアケミを殴った。俺の女房…

短歌題詠 039:贅肉

税金といふ銭取られ贅肉といふ肉が増え憎き現世よ

200字小説「燈火の炎に映った女」(「今昔物語」より)

その日、宣耀殿はちょっとした騒ぎになっていた。小中将の君は母屋の女御様の御前にいるはずなのに、廂の燈火の炎の上に彼女の姿が浮かび上がったという。若い女房達はどうすればいいのかわからないと見え、おろおろしている。けれど私は「こういう時は燈火…

140字小説まとめ4

※Twitterに投稿した140字小説をSS名刺メーカー様にて画像化しました。

400字小説「マツバギク」

元ネタ:横浜を発つ日の重き空の下おもちやのやうな松葉菊咲けり(自作)

200字小説「虹のお告げ」

夕立に見舞われたのは、彼のバイクに二人乗りして走っていた時だった。構わずバイクを飛ばす彼の背中に、私はしがみついた。雨はすぐ止み、虹が出た。それも二重の虹が。ずぶぬれの私達は川原にバイクをとめて見とれた。「神様のプレゼントね。私達の気持ち…

200字小説「美しき人魚」

食事の後、二人きりで海辺を歩く。見合いなど初めてなので戸惑っていた。終始すまし顔だった彼女は、砂浜を歩いているうちに落ち着きがなくなり、突然「もう我慢できない」と叫ぶと、真珠の首飾りを外して僕に差し出した。「これ、持っていて下さる? 祖母の…

140字小説まとめ3

※Twitterに投稿した140字小説をSS名刺メーカー様にて画像化しました。

200字小説「月夜」

陸軍大将子息の惟貞(これさだ)は茶会から帰るなり、出迎えた婆やに仏頂面で「華族のお嬢さん達はまるで月下美人だね。確かに綺麗だがよそよそしい」と言った。ちょうど庭先に月下美人が咲いている。未来の花嫁にふさわしい相手はみつけられずに夜を迎えた…

400字小説「浅い夢からさめてしまっても」

短歌題詠 038:明日

明日からはがんばるつもりとりあへず今日は英気を養ふつもり

400字小説「ひるがほの仄かににがし」

短歌題詠 037:とんかつ

とんかつよりごはんの方がうまかったとんかつ屋さん今はなき店

短歌題詠021~036

021:窓 ぬすみぎきすきぬすみよみだいすきでよそんちの窓のぞくのもすき022:素 頑張って生きているのにわがからだすり抜けてゆく素粒子どもよ023:詩 これはあれドレミファソラシ詩ではなくまして死でなく口からでまかせ024:きらきら きらきらとしているもの…