しぐなすの創作物置小屋

小説・現代誤訳・詩歌・漫画などなど

400字小説「祈りの日」

 空襲の翌日、東京は焼け野原だった。母に連れられて旦那様のお屋敷に行った。私たちが住んでいた離れの小屋は跡形もなく、母屋はかろうじて屋台骨が黒焦げになって残っていた。
 瓦礫の中に生焼けの積み木があった。確かに坊っちゃんの玩具だ。一度ちらりと見た時から、羨ましくて仕方がなかった。妾の子にそのような玩具など望むべくもないのは、大人になった今ならわかる。
 積み木を拾おうとする私を、母が制止した。見ると、積み木の周りに小さな骨らしきものが散乱していた。
坊っちゃんは積み木を抱いていたんだね」と母が涙ぐんだ。私も声を上げて泣いた。
「男の子が泣きなさんな」と母が言った。
 私たちは手を合わせた。
 本当は坊っちゃんの死が悲しいのではなかった。積み木が惜しくて泣いたのだ。
 今年もまたあの日が来る。


「三題噺スイッチ改訂版」様のお題
焼け野原
拾う
積み木
https://mayoi.tokyo/switch/switch2.html

「現実とテキスト」

 現実とテキストは違うのよ。テキストには書いてないこと、書かなくていいこと、書いてはいけないことがあるのよ。だってあなたは人間でしょう? 息してるでしょう? くしゃみするでしょう? うんこするでしょう? うんこしたことをいちいちテキストにはしないでしょう? 現実は散漫なのよ。現実をそっくりそのままテキストにするなんて無理なのよ。現実の、いえ、書いた人が現実だと思いこんでいる(違う人にとっては嘘だと思うかもしれない)現象の、ほんの一部分だけがテキストなの。だからエッセイでもノンフィクションでも、テキストはみんなフィクションといえるのよ。

「アインシュタインの名言短歌」

偶然の一致。あれはね、神様が匿名希望でなさったお仕事

"Coincidence is God's way of remaining anonymous."


重力のせいにはできない もし君が彼女とうっかり恋に落ちても

“You can’t blame gravity for falling in love.”

Albert Einstein