しぐなすの創作物置小屋

小説・現代誤訳・詩歌・漫画などなど

2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

200字小説『忘れて、なんて残酷だね』

「忘れて、なんて残酷だね。私ならそんなこと言わない」とユウコは言った。「あなたの五年間をなかったことにするなんて」と。「彼女にあげたハートのネックレスをなかったことにするなんて」と。「出張先から書いた愛の手紙をなかったことにするなんて」と…

現代誤訳短歌

「いかにせんかくとは人に言ひがたみ知らせねばまたしる道もなし 京極為子」【現代誤訳】 このきもちなかったことにしたくないだけどいえない好きですなんて

短歌

「おとうとよ忘るるなかれ天翔ける鳥たちおもき内臓もつを 伊藤一彦」へのオマージュ内臓のなき鳥として夕空をひかりて浮かぶ遠い飛行機

200字小説「遠花火」

蒸し暑い夏の夜。ドーン、ドーンと音がする。遠花火。隣にマンションが建って、今年は窓から花火が見えなくなった。 花火大会に行った若い日を思い出す。横には彼女がいた。初めての恋。紺色の浴衣を着てはにかむ彼女は可憐だった。 「花火、見に行く?」 三…

400字小説「ボクは犬」

ボクは犬の山田ポチ。元捨て犬の雑種だけど、小学五年生のタケルが子分。毎日散歩に連れていく。 ある秋の午後、タケルを連れて遊歩道を散歩していると、見慣れないトイプードルがいた。かわいい女の子だ。リードを持っている人間も女の子で、ひらひらのスカ…

200字小説「敗戦の弁」

完全にわしの負けじゃ。この世界に入って足かけ五十五年。かつては天才少年と呼ばれ、向かうところ敵なしだったが、あんな若造に敗北を喫すとは、わしも焼きが回った。あやつは今年十六歳と聞く。わしがプロデビューしたのも十六の春だった。雪解川の勢いは…

200字小説「あやめ」

この古びた屋敷にひきこもって何十年になるだろう。昔々、あやめも知らぬ恋をした私を、二親(ふたおや)はここに閉じ込めた。その親ももういない。久しぶりに雨戸を開けると庭にあやめが咲いていて、私の心を乱す。あの人はどこでどうしているのだろう。婆…

200字小説「おぼろ月」

彼女は煌々と冷たく輝く満月の下を走っていた。見てしまったのだ、タカシがカズミとキスしているのを。大学一年生の時から付き合っている彼の部屋の扉を合鍵で開けたとたん目に入り、そのまま飛び出した。付き合って三年の自分達の間に、まさかサークルの後…

200字小説「呑んだくれの独り言」

台風の中をアケミが出て行った。場末の飲み屋のホステスだが、勝手に俺の世話を焼いていた。片足をなくして船を降りてからもうすぐ一年。サメにさえ食われなけりゃ船乗りを続けたのに、生き残ったのが奇跡なんだとよ。足がうずくとアケミを殴った。俺の女房…

短歌題詠 039:贅肉

税金といふ銭取られ贅肉といふ肉が増え憎き現世よ