2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧
その日、宣耀殿はちょっとした騒ぎになっていた。小中将の君は母屋の女御様の御前にいるはずなのに、廂の燈火の炎の上に彼女の姿が浮かび上がったという。若い女房達はどうすればいいのかわからないと見え、おろおろしている。けれど私は「こういう時は燈火…
※Twitterに投稿した140字小説をSS名刺メーカー様にて画像化しました。
元ネタ:横浜を発つ日の重き空の下おもちやのやうな松葉菊咲けり(自作)
夕立に見舞われたのは、彼のバイクに二人乗りして走っていた時だった。構わずバイクを飛ばす彼の背中に、私はしがみついた。雨はすぐ止み、虹が出た。それも二重の虹が。ずぶぬれの私達は川原にバイクをとめて見とれた。「神様のプレゼントね。私達の気持ち…
食事の後、二人きりで海辺を歩く。見合いなど初めてなので戸惑っていた。終始すまし顔だった彼女は、砂浜を歩いているうちに落ち着きがなくなり、突然「もう我慢できない」と叫ぶと、真珠の首飾りを外して僕に差し出した。「これ、持っていて下さる? 祖母の…
※Twitterに投稿した140字小説をSS名刺メーカー様にて画像化しました。
陸軍大将子息の惟貞(これさだ)は茶会から帰るなり、出迎えた婆やに仏頂面で「華族のお嬢さん達はまるで月下美人だね。確かに綺麗だがよそよそしい」と言った。ちょうど庭先に月下美人が咲いている。未来の花嫁にふさわしい相手はみつけられずに夜を迎えた…