しぐなすの創作物置小屋

小説・現代誤訳・詩歌・漫画などなど

200字小説「美しき人魚」

 食事の後、二人きりで海辺を歩く。見合いなど初めてなので戸惑っていた。終始すまし顔だった彼女は、砂浜を歩いているうちに落ち着きがなくなり、突然「もう我慢できない」と叫ぶと、真珠の首飾りを外して僕に差し出した。「これ、持っていて下さる? 祖母の形見ですの」と彼女はにっこり笑って言い、海へ駆けていった。そして花柄のワンピースのまま泳ぎ始めた。僕は呆気にとられた。その後、腹の底から笑いがこみ上げてきた。

元ネタ:「首飾われに托して泳ぎ出づ  橋本美代子」