しぐなすの創作物置小屋

小説・現代誤訳・詩歌・漫画などなど

雨の歌

 おかあさん、あのときも雨が降っていましたね。あなたが私をみごもったのを知った日です。
 おかあさん、あの日あなたは涙を流しましたね。それは嬉し涙で、自分が石女でないという安堵の涙だったのを、私は知っていました。
 おかあさん、ほんとうはあなたが私を欲しがっていないのを、私は知っていました。
 おかあさん、あなたにおとうさん以外に好きな人がいるのを、私は知っていました。
 だって、私は、おかあさん、あなたのからだの中にいたのですもの。
 だから私は生まれませんでした。私は流れ星になったのです。
 おかあさん、あなたはあれからおとうさんと離婚しました。
 おかあさん、あなたは二度とおかあさんにはなりませんでした。
 おかあさん、それがあなたの幸せでした。
 おかあさん、あなたの人生に、私は少しは役に立ちましたか。
 おかあさん、私は巡り巡って雨となりました。
 おかあさん、今、あなたの銀の髪を濡らす雨が私なのです。