おかあさん、あのときも雨が降っていましたね。あなたが私をみごもったのを知った日です。
おかあさん、あの日あなたは涙を流しましたね。それは嬉し涙で、自分が石女でないという安堵の涙だったのを、私は知っていました。
おかあさん、ほんとうはあなたが私を欲しがっていないのを、私は知っていました。
おかあさん、あなたにおとうさん以外に好きな人がいるのを、私は知っていました。
だって、私は、おかあさん、あなたのからだの中にいたのですもの。
だから私は生まれませんでした。私は流れ星になったのです。
おかあさん、あなたはあれからおとうさんと離婚しました。
おかあさん、あなたは二度とおかあさんにはなりませんでした。
おかあさん、それがあなたの幸せでした。
おかあさん、あなたの人生に、私は少しは役に立ちましたか。
おかあさん、私は巡り巡って雨となりました。
おかあさん、今、あなたの銀の髪を濡らす雨が私なのです。